強迫的性行動症

性嗜好の偏りは様々な行動として表れます。以下は当院が治療の対象としている強迫的性行動症です。

ホスト依存(ホス狂い、ホス狂)

ホスト依存(ホス狂い、ホス狂)

恋愛依存

恋愛依存

地下アイドル、追っかけ

地下アイドル、追っかけ

キャバクラ・風俗

キャバクラ・風俗

AV・ポルノ

AV・ポルノ

セックス依存症 家族相談

性的欲求・浮気

強迫的性行動症の特徴

30年ぶりに新しい診断基準になったICD-11が新たに採用した病名です。以下のような特徴があります。

1、反復的で持続する性衝動

反復的で持続する性衝動による、反復的で問題がある性行動を認める

2、抑制できない

嗜癖ではなく、性衝動が抑制できないために問題となる性行動が生じる

3、本人が苦しむ

この問題となる性行動のために本人が苦しむ

4、パラフィリア症群でない

パラフィリア症群を除く
新しくできた病名なので馴染みがありませんが、男性と女性とでは性行動に差があるために臨床像は少し異なります。
【タイプ1】商売系

男性の強迫的性行動症

キャバクラ、デリヘルやソープランドなどの風俗を利用することがやめられず、多額の借金を作ったり、家族との関係性が悪化したり、罪悪感や虚しさに思い悩む。
キャバクラ 風俗通い

女性の強迫的性行動症

ホストクラブや地下アイドルにはまり(一部男性もある)、貢ぐために売春等を始める。返済のプレッシャーや人間関係のストレスで精神的に不安定になったり、不規則な生活に体調を崩して思い悩む。
ホスト依存 ホス狂 地下アイドル おっかけ
【タイプ2】個人系

男性の強迫的性行動症

特定のパートナーがいるにも関わらず、性欲を満たすために他の人と関係を持つことがやめられない。特定のパートナーがいなくても次から次へと性的な関係を持つ相手を探してしまい、自分でも虚しくなる。
AV ポルノ 浮気

女性の強迫的性行動症

特定のパートナーがいるにも関わらずSNSなどで性的欲求やさびしさを埋めてくれる男性を探してしまう。特定のパートナーがいなくても次から次へと心の穴を埋めてくれる男性を求めてしまう。罪悪感や虚しさがある一方で、常に男性がいないと生きていけないと思い悩む。
恋愛依存 男性依存 不倫
男女共通:芸能人や歌手等の特定の対象を執拗に追いかけストーカー行為に発展することがあり、実際にストーカー規制法に違反し捕まることになるものもあります。

強迫的性行動症のタイプ

ホス狂い・ホス狂

女性の強迫的性行動症の代表的なタイプです。20年くらい前よりありましたが、大きく取り上げられることはありませんでした。最近のホストクラブの競争激化、SNSの発展によって話題性が増し、社会問題化しています。特徴は以下のようなことがあります。

恋愛依存

他にも、『男性依存』『恋人依存』『彼氏依存』など呼ばれます。
・常に彼氏がいる状態じゃないと落ち着かない
・一人の人に限らず、自分を好いてくれる人であれば何人いても良い
・彼氏に必要とされる存在でありたいため、時間やお金を費やして彼氏との関係性を続けようとする
・仕事や家族、友人との約束よりも彼氏との予定を優先する
・常に彼氏の行動を把握するために逐一SNSをチェックする
・別れを切り出されるとどんな手を使ってでも(懇願、脅し、金銭的援助など)関係を修復しようとする
・別れた後も忘れられず何度も連絡を取ったり会ったりする
など、恋愛が生活の中心であり、他の重要なことを蔑ろにすることで社会的、経済的、対人的な問題が生じる状態をいいます。中には別れた後にストーカー行為を繰り返しトラブルに発展するケースもあります。
「別れた方がいいとわかっているのに別れられない」「自分の感情に振り回されるのがつらい」「このままではもっと問題が大きくなってしまう」など、対象から離れたい、相手に執着することをやめたいと思っている方はご相談ください。

地下アイドル、アイドルオタク、追っかけ

これも女性に多い強迫的性行動症です。基本的構造はホス狂と同じですが、ホストクラブに入店できない未成年者に多く、ホストクラブに比べれば経済的な問題は小さい傾向があります。一般的にはアイドルのCDやチェキなどの大量買い、配信ライブでの投げ銭等過度な推し活が問題となります。一部の人は学生時代に地下アイドルを追いかけ、大人になってからはその対象をホストに移すこともあります。治療法はホス狂と似ていますが、軽症であれば通院の集団精神療法で回復することが少なくありません。また、このタイプには女性アイドルを追いかける男性タイプもあります。

浮気、AV・ポルノ、マスターベーション系

パートナーがいるにも関わらず他の人に性的な刺激を求める、あるいはパートナーがいなくてもさびしさを埋めるために触れ合える相手を求める、金融会社から借金をしてまで他者の温もりを求めて風俗に通ったりする、AVやポルノ画像の閲覧、マスターベーションに時間を費やして他のことが手につかないといった人が該当します。性犯罪ではないため社会的な問題にまで至る人は多くありませんが、借金を作って経済的に困窮したりパートナーとの信頼関係において問題が生じ、自らの性的欲求をコントロールできないことに苦痛を感じます。

ストーカー系

男性は女性、女性は男性の歌手、作家などの有名人を対象とすることが多い。始まりはコンサート、サイン会などから始まりファンクラブに属するようになり、その中で競争するようになり加熱しやすく、そして歌手や作家との個別の連絡にはまるようになり、自宅等を訪問して問題となり、ストーカー規制法に引っかかることも少なくありません。

治療について

本来であれば問題が悪化する前に対策を立て、予防することが一番ですが、恋愛や娯楽(ホストクラブ、Youtube視聴、推し活)は世の中で普通に受け入れられているものであり、それ自体悪ではありません。しかしながら衝動の抑制が苦手な人にとっては、こういった活動を娯楽の範囲にとどまらせることが難しく、経済的あるいは社会的な問題につながります。発達障害等で衝動の抑制が苦手な人の場合はさらに大きな問題に発展します。こうなるともはや冷静に物事を考えることはできず、パートナー、ホストなど関心のある対象のことで頭がいっぱいな視野狭窄状態に陥ります。そのため、問題や自身の思考を整理し、広い視野を取り戻すために集団精神療法、カウンセリング等を行います。

また、対象のパートナーやホストクラブから距離を置くことはもちろんですが、これだけでは弱いことが多く、このような対象に近づけないような生活習慣を作ることも重要です。こういった場合、当院のグループホームに入居することで物理的に関係を持てない環境にすることが可能です。さらに、お金を稼ぐために夜の仕事をして昼夜逆転の生活になっている方もおり、当院の就労支援を利用することで昼間の仕事に就き、規則正しい生活習慣を取り戻すことも可能です。

なお、対象に貢ぐことが当たり前になってしまうと普段の金銭感覚から狂ってきます(1万円が100円玉のように感じる!)。就労訓練を終え一般就労となれば当然収入が増えますので、そのときにまた衝動的にお金を使ってしまうことのないよう、限られたお金の中で計画的に生活できるような金銭感覚の訓練も行えます。

家族相談

上述の状態になると、自ら治療の必要性を認識し進んで治療を受けることが難しくなります。問題が大きくなってから初めて家族が知ることもよくあります。例えば、娘に対し「最近夜遊びが多いなぁ」と思っていたらその半年後に300万の借金があることがわかり、何に使ったのか問い質して、初めてホストクラブに通っていたことが判明するケース。それでもなお家族に返済を求め、娘自身はまだホストクラブに通い続けようとすることがあります。

家族としては一刻も早く娘を夜の街から引き離したい一心ですが、娘自身がホスト通いをやめたいと思わないとなかなか止めることが困難です。一方で、娘が自身の問題と向き合うために家族がサポートできることもあります。当院では家族相談を行っています。ときに問題に直面させようとする家族の関わりは、かえって娘の問題行動に拍車をかけることもあり、お互い感情的に傷つけあったり無視をしたりと関係悪化に繋がることもあります。困ったことがあったときに相談してもらえるように、まずは関係改善のための取り組みから始めましょう。家族相談は遠回りに思えるかもしれませんが、ご家族が今できる最善の行動です。

本人が来たがらない場合

まずは対応を相談するためにご家族が受診してください。強迫的性行動症は家族とのコミュニケーション次第で問題行動は悪化も改善もします。本人との関係性が改善すれば治療に繋げる機会も増えるので今すぐご相談してください。