1、ストーカーのタイプ

オーストラリアではストーカー加害者に対して、StalkingRiskProfileというリスク評価手法を用いています。これによればストーカー加害者は、その対象、対象との関係性、動機、精神病理性の有無から5つの型に分類されます。

① 拒絶型

親密な関係性(夫婦や恋人)の崩壊を背景に発生。動機は関係性の再構築であることが大半ですが、拒絶されたことに対して怒りを感じ復讐を行うこともあります。実際にはこのどちらの思いも持っており、相反する感情に葛藤しています。ストーカー行為を行うことで被害者を身近に感じることができたり、自らの傷ついた自尊心が慰められる感覚を得ることができるため、行為は継続します。

② 憎悪型

自分が酷い扱いを受けている、被害者であると感じることで発生(被害者は見知らぬ人や知人が多い)。被害妄想的な思考が大きくなり、相手に対して復讐や仕返しのためにストーカー行為を行います。被害者が恐怖感を抱くほど支配欲や征服感が満たされるため、行為は継続します。

③ 親しくなりたい型

孤独感や相談できる親しい人がいないことで発生。被害者と親しくなりたい気持ち(恋愛関係を築きたいことが多い)からストーカー行為を行う人がいれば、既に被害者との間に何か特別な関係性があるという妄想観念に基づきストーカー行為を行う人もいます。被害者と親密に繋がっているという確信からもたらされる満足感により、行為は継続します。

④ 相手にされない求愛型

孤独感や性欲を背景に発生。③とは異なり必ずしも恋愛関係である必要はなく、もともとの目的は会うことや性的関係を得ることです。そのためストーカー行為は短期間で終わりますが、対象が無分別だったり被害者の苦痛に無関心だったりするために行為は継続します。

⑤ 略奪型

常軌を逸した性癖と興味を背景として発生。通常は加害者が男性、被害者は性的興味を持たれた見知らぬ女性であることが多いようです。ストーカー行為は性的満足を得るため(覗き、盗撮など)に行われたり、性的暴行を加える前に情報収集の一環として行われることもあります。警戒心の無い状態の被害者を対象とすることで支配感や征服感、満足感が得られるために行為は継続します。
なお、上記類型の中には病的な妄想やこだわりがみられるケースがあり、その場合は統合失調症、妄想性障害、自閉症スペクトラム症、ADHD、双極性障害、知的障害などの精神疾患を合併しているかもしれません。すでに診断を受けている人もいれば未治療で現在まで経過している人もいます。この場合、再発を防止するには罰則よりも医療的支援の方が重要になります。

2、ストーカーの心理・原因

当院にもさまざまな背景の患者さまが受診されます。交際関係にあったパートナーから別れを切り出されたことがきっかけの方(拒絶型)、ファンという立場でありながら自分は被害者と特別な関係性であると思いこんでいる方(相手にされない求愛型)、自分に優しくしてくれた被害者に好意を持ちもっと知りたいと思うようになった方(親しくなりたい型)などなど…。

共通する特徴は、被害者から拒絶されているにも関わらずなんとか繋がりを維持しようとアプローチをくり返す点です。被害者はこのアプローチに対し不安や恐怖、嫌悪感を抱き、ますます離れようとします。しかし離れていくことを脅威に感じた加害者は関係性の修復のために手段を選びません。悪循環に陥り、ストーカー行為はさらに悪化していきます。

  • 急に別れを言うなんて酷い。一方的で許せない。納得いくまで話し合いたい。
  • 今まで自分は相手に尽くしてきた。それを無下にするなんて酷い。
  • 警察に捕まったせいで仕事を失った。自分だけこんな目にあうなんて腹が立つ。相手も同じ目にあわせないと気が済まない。
  • 相手も自分と同じ気持ち(=両想い)のはずなのにどうして会ってくれないのだろうか。贈り物すら受け取ってくれない。
  • 相手は自分のことが好きなのかもしれない。確かめないと。
  • 相手のことをもっと知りたい。一度話をしてみたい。
  • 自分はストーカーではない。相手が無視するから連絡しているだけだ。

患者さまからこういった話をよく聞きます。常日頃からこのように考えている人もいれば、「頭ではすべきじゃないとわかっているのに、きっかけがあると感情的になってやってしまう」という人もいるようです。

愛情や憎しみ、支配欲や嫉妬心…加害者はさまざまな感情を抱いていますが、これを放っておくと感情はさらに複雑化し、再び衝動的なストーカー行為へと駆り立てられていくことになります。

当院は「ストーカー加害者の精神医学的治療等指定医」としての委嘱を受けた医療機関です

当院は、神奈川県警察よりストーカー加害者の「精神医学的治療等指定医」として委嘱を受けた専門のクリニックです。

本人が来たがらない場合

まずは対応を相談するためにご家族が受診してください。ストーカーは家族とのコミュニケーション次第で問題行動は悪化も改善もします。本人との関係性が改善すれば治療に繋げる機会も増えるので今すぐご相談してください。