専門施設を選ぶのに知っていたら良いこと

厚労省は、国連や財務省に非難されている専門施設の現状には強い不満を持っています。 そして、この現状を変えるために令和7年10月より実施する「就労選択支援」の実施マニュアルの事業概要の現状の課題を述べています。

国連や財務省の言うように、日本の専門施設は問題が多い。この問題を解決するマニュアルや支援者がない。このために優良な施設に適切に障害者を導くことができない。この結果として問題の多い就労継続A型、B型の施設に長期間に閉じ込められてしまう。しかし、有能な支援者に巡りあえれば、障害者の人生は良い方向に大きく変化する。

分かり難い文章なので専門施設向けに端的に解説するとこのように思います。厚労省の言うように、将来はこの問題を解決できるかもしれません。しかしながら今日専門施設を必要としている本人や家族はたまったものではありません。このためにこの問題を解決する現状でもできる方法を考えてみたいと思います。

選び方ポイント①

施設の入所基準
精神分野には「入所の明確な基準」がありません。そのため、軽症でも施設を勧められたり、本来は外来治療で可能な人も長期通所になることがあります。施設は経営のために、施設の入所を必要以上に勧める施設もあります。このために一般的な「施設の入所基準」は理解していた方がよいと思います。この様な事を書くと驚かれるかもしれませんが、厚労省は施設の入所の基準があいまいだから、軽症の利用者に施設の利用を勧めて、施設側は利益を出していると考えているようです。確かに、精神科は内科や外科に比べて治療方針が統一されていません。そして現在まで専門家の誰もが認める専門施設への入所の基準はありません。(うつ病のように、もっと有名な病気では、世界中の著名な医師が、治療方針を学会の名前で出すこともありますが、それでも1つの意見にしかすぎません。)このことが軽症の患者さんを重症として扱い、施設に入所させるという問題を起こす誘因となります。
一例として、私の考える施設入所の基準5つを書いてみます。
  • 外来や入院治療がうまくいかない(専門の外来や入院の治療で、何回かうまくいかない時)
  • 無職が長期化している(無職等が長期間になっており、社会復帰までに時間がかかることが予想される時)
  • 生活基盤が不安定(住居等を失っており、治療の継続の基盤がない時)
  • 家族依存が強い(両親等に頼りきりになっており、両親から離れた方がよいと思われる場合)
  • 地域に支援が少ない(地域に適切な治療機関や専門施設がない場合)

選び方ポイント②

相談先の選び方に注意
ホンダのバイクの販売店に行けば、ヤマハの中古バイクは売りません。ホンダの店はホンダの利益を考えるからです。ところが上野にあるようなすべての会社の中古のバイクを扱う店に行けば、ホンダでもヤマハでも購入者の希望や適性にあったどの会社のバイクでも販売します。この様な店はどの会社の中古バイクを売っても利益が出るからです。これと同様なことは専門施設でも起こります。専門施設も経営のことを考えますので、自社のサービスを優先的に勧める傾向があります。この様なために専門施設しかない事業所に相談すれば、自社の専門施設を勧められる傾向が強くなります。ところが依存症も軽症から重症まで幅があります。施設は一般には最も重症の患者さんを扱います。もし軽症の患者さんが、経営重視タイプや利益重視タイプの施設に相談すると、本来患者さんに適切でない施設への入所を勧められる可能性があります。その結果として治療のミスマッチが起こることになります。そして患者さんに不利益が生じることになります。

多種類のサービスを展開している事業所に相談する

令和7年10月より就労選択支援という新しい事業を、厚労省は立ち上げました。私は厚労省の切実な気持ちも分かりますが、この新しい事業が軌道に乗るまでは時間がかかると思いますので速効性はないと思います。もっとはっきり言うなら、福祉を民営化した以上は、民間会社が利益を求めるのは当然です。このためにこの様な行動を完全に抑制することは、介護保険と同様に困難と思います。

このために、施設を利用する時には、介護保険と同様に中立なセカンドオピニオンを求めることをお勧めします。しかしながら、民営化した以上は、完全に中立なセカンドオピニオンを探すことは非常に困難です。次善の策として、介護保険と同様に多種類のサービスを展開している事業所に相談することも良いと思います。

選び方ポイント③

施設の入所期間は必ず確認
経営を重視する施設にとっては、施設の入所期間が長くなるほど利益がでます。このために、患者さんの施設の入所期間を長くする傾向があります。しかし、施設の入所期間が長期間になると患者さんは依存的になり、社会復帰が困難になります。このために入所期間はできるだけ短い方が望ましいです。

専門施設の誰もが認める標準的な入所期間は現在まで定まっていません。この様な状況なので正確に言うことは難しいのですが、私は施設の標準的な入所期間は半年間~2年間と思います。しかし、意図的に長期間の入所を考えている施設は、利用者に自社の入所期間が長期間であることを知られるのを嫌がり、その施設の標準的な入所期間を利用者に正確に伝えるかどうかは分かりません。このために以下のことに注意してください。

1、施設を見学して利用者に入所期間を確認してみる

施設を見学して、入所中の利用者にどのくらいの期間入所しているか、たずねてみてください。一人ではうまくいきませんが、何人かの利用者にたずねると、その施設の入所期間を予想できるかもしれません。ただし個人的な感情の強い利用者も少なくないので、注意が必要です。

2、退所の時期を明確に示すことのできる施設か

入所期間が利用者にも明確にわかるかということです。例えば「精神的に安定した時が退所の時期です。」と施設が答えた時は、誰が精神的に安定したと判断するかは注意が必要です。施設側にしか判断できないのであれば、治療期間は利用者には分からなくなります。もし明確な数字でかつ明確な根拠で、その施設が退所の時期を示したら、かなりのレベルの施設と思います。と言うのも、利用者に施設の退所の時期が分かれば、施設側は経営的に問題があっても、退所させなければならなくなるからです。

すなわち利用者に退所の時期を明確に示すことのできる施設は、経営より利用者の利益を優先していることになります。

選び方ポイント④

退所時のゴールを確認
施設を退所する時の状況をたずねた方がよいです。施設を退所する時は、断酒が安定した時か、断酒が安定して仕事について社会的に回復した時かによって、将来が大きく変わってきます。生活保護や両親に依存的な期間が長い利用者の場合は、断酒が安定することと社会復帰できるかと言うことは、別と考えてください。

断酒が安定しても就職活動、その後の職場定着、一人暮らし、金銭管理等に成功しなければ、病院に再入院になることは珍しくありません。厚労省が施設の評価として、就職率ではなくて、就職後6カ月間の就労継続を基礎とした就職後6カ月以上定着率を指定したのは、もちろんこのことを考えてのことと思います。

経済的自立まで視野に入っているか(就労は週2日のパートのような勤務か、生活保護でなく自分で経済的に自立して暮らせることができる週5日の勤務であるか)

高齢の場合はパートでも仕方がないかもしれませんが、勤労ができる若い年齢の人がパートの勤務をしますと、長い将来のある人生を豊かに暮らすためには、さらに施設をでた後にもう一度就職活動をして、自立した生活を目指さなければなりません。その時は施設内に在籍して就職活動するのと違い、施設を出たあとは施設の援助なしで1人で就職活動をしなければならなくなります。このために本人も就職活動や自立した生活ができるかどうかに不安になり、就職活動に積極的にならず、生活保護のままの生活を続けたり、就職活動に失敗して再飲酒になる傾向があります。

また、経済的に自立できていないということは、依存的な生活が持続しているということです。このために甘えがでやすく、再び問題のある生活に戻りやすい傾向があります。多大な犠牲を払って長期間の施設入所をするのなら、自立した生活を手に入れるべきです。

施設を出た後にさらに次の就労系の施設への通所をすすめられる

施設によっては、施設を出た後にさらに次の就労系の施設への通所を勧める場合があります。この場合は施設の入所期間が延びたのとほぼ同じです。さらに悪いことには厚労省に言わせると、この様に施設を2つ以上利用して、段階的にステップアップし就労に結び付ける方法は、最終的にはほとんど就労に辿り着けないそうです。例えばB型事業所から、A型事業所に移行して、その後一般就労するコースを考えてみましょう。なんとかB型事業所を卒業してA型事業所にステップアップしたとします。しかしその後は、令和5年の厚労省のデータによると、A型事業所では一般就労へ移行した割合は  5.1%にしかすぎません。そして、A型事業所にはB型事業所等からレベルアップして上がってくる利用者もおられますが、一般就労に近い利用者も多くおられます。一般的には一般就労に近い利用者が就労され、B型等から上がってきた利用者は一般就労に近い利用者に比べて、就労が困難なことが多いように考えられます。

この様なわけで、最初のB型等の専門施設を卒業できたとしても、次の施設でA型事業所というネガティブフォースに捕まってしまって、結論としては就労できないと考えているようです。しかし、厚労省のデータと異なり、臨床をする私は2つの施設を通過して、一般就労にたどりついた患者さんを少なからず知っています。しかし、この様な患者さんは軽症の患者さんで、本来なら2つの施設を利用しなくても一般就労できる患者さんです。むしろ短期で一般就労できる患者さんが、ネガティブフォースを持つ施設のために長期間施設を利用することになったと言うのが私の印象です。

選び方ポイント⑤

厚労省のデータを参考に
厚労省の発表している、客観的なデータを参考にした方が良いです。厚労省はこの業界のプロ中のプロで、国民の健康を考える中立的な立場の組織です。このために厚労省が推薦する事業者が国民にとってよい事業所である可能性が高いです。厚労省は個別にどの事業所が良い事業所であるとは立場上言えません。しかしながら、ほぼそれと同等の事を行っています。厚労省は事業所が厚労省の指導に従い福祉サービスを行った時には、事業所に報酬を支払います。その時に厚労省が望ましいと思う福祉サービスを行った事業所には報酬を加算し、望ましくない福祉サービスを行った事業所には報酬を減額します。このために厚労省が、どのような福祉サービスに対して報酬を加算減算したかと、どの事業所がどれだけ加算減算されたかが分かれば厚労省が良いと言っている事業所や問題があると言った事業所が分かったのと同様になります。

厚労省は定着率や就労人数を事業所に毎年報告するよう指示しています

厚労省はどれだけ障害者が一般就労したのかを最重要項目にしています。このために以下の様な項目を事業所に毎年報告するように指示しました。就労移行支援事業所には、定員に対してどれだけの割合の利用者が就労したか「就職後6カ月以上定着率」という数字で毎年春に事業所に報告させています。そしてその成果を7段階に分けて、その結果に基づいて報酬を事業所に支払っています。この様な状況なので、就職後6カ月以上定着率(報酬区分)が各施設ごとにわかれば厚労省の推薦する事業所がわかったことになります。ところが、去年までは厚労省は全国の各々の事業所の報酬区分の情報は持っていたのですが、公表することには積極的でありませんでした。なぜ公表しなかったのかは私には分かりませんが、去年の春に公表する事を決定しました(障害者福祉サービス等情報公表制度による)。その結果としてこのデータが世間に流れ出ることになりました。そして全国の専門施設のこのデータを表にしてまとめたものが、このデータ一覧表(平均就労定着率)です。自立訓練・B型事業所には、基本的には就労移行と同じ考え方で就労した利用者数に応じて、報酬が加算されます。ただし呼び方が「就労移行支援体制加算」と変わったことと、就労した割合でなく人数で区別したことです。おそらく厚労省はB型、自立訓練は就労する人数が少ないので、割合では差がでないと考え人数にしたのだと思います。

B型事業所の工賃を公開しています

次に厚労省が重視したのは、B型事業所の工賃を高くすることです。このために利用者に支払われる工賃の平均額を「平均工賃月額)」と定め、その月額によって8段階に区別し、報酬に差を付けました。そして全国の専門施設のこのデータを表にしてまとめたものが、このデータ一覧表の平均工賃月額です。

それでもなぜ利益重視型の施設が選ばれるのか

この様に言われれば、どの施設を選んでも同じように思えます。しかし、実際は数年間という長期間にわたって施設に通所、入所することになりやすく、仕事に就くことができにくい「利益重視型」を選ぶ利用者は少ないのではないかと思います。それなのに、なぜ「利益重視型」の施設に入所する人がいるのでしょうか?

第1の理由は情報不足です。全国的に有名な「利益重視型」の施設は悪い評判が世間に出まわることもあります。しかし今回のようなデータがなければ、あなたに施設を勧める人も全国のデータを知っているとは限りません。私自身も今回のデータを集めるまでは、単なるうわさでどのタイプかを判断するしか方法がありませんでした。このためにどの施設が「利益重視型」なのか正確に判定できませんでした。そして「利益重視型」が選ばれてしまいます。

第2の理由は病院等から退院する時によくおこります。退院日等が決定しているために、専門施設に期日までに入所しなければいけない状況が起こります。専門施設が全国的に余っているわけではありません。あなたやあなたに専門施設を勧めるサポーターの人が「利益重視型」の専門施設だとわかっていても、退院の期日の問題があるために、患者さんを積極的に入所させる「利益重視型」しか選べないわけです。もっとわかりやすく言うと、「現代病状重視型」の施設があったとすると、その施設は人気が出ます。そのために利用者が集中し、入所まで長く待つようになります。(良質施設は待機が長い)また施設側も多数の希望者がいるので、問題の少ない利用者を選ぶ傾向があります。ただちに入所を決定しなければいけない利用者は問題が多い傾向があり、待てないために「現代病状重視型」の施設は選べないことになります。でもこれは利用者サイドだけの問題ではなく、「現代病状重視型」の施設にも問題があると思います。(施設側が利用者を選ぶ構造)

わくわくワーク大石は「現代病状重視型」の施設ではありませんが、私はわくわくワーク大石の社会復帰するという方針を、利用希望者にはよく理解してもらうようにと指示しています。そして、わくわくワーク大石の方針に納得される利用希望者は、軽症であろうと重症であろうと、また過去に問題があろうとなかろうと、受け入れるように指示しています。また本人の入所の意思の決定には時間をかけます。しかし一旦本人の通所、入所の意志が決定し連絡があったら、一般の病院と同様にその日より1週間以内に入所できるように努力しています。

1、情報不足
2、退院期限など時間制約
3、良質施設は待機が長い
4、施設側が利用者を選ぶ構造

まとめ

現在の日本の専門施設はわくわくワーク大石も含めて、この程度の就労定着率では、国連の言う通りブラック企業の集団と言った方が正しいと思います。日本の専門施設では2年間以上も生活保護から自立できず毎日施設に通所している多くの利用者がいます。そして多くの施設職員はそのような利用者を見ても問題とすら感じていないのが現実と思います。

現在わくわくワーク大石では施設に入所したら、「金は生活保護から支給されるもの、あるいは両親が面倒をみてくれるもの」という考え方を捨て、「自分が働いて稼ぐものである」という考え方に変えてもらうために、就労訓練をして工賃を稼いで生活してもらいます。そして朝7時に朝食を食べて、8時30分から17時30分まで週に5日間仕事をするという習慣を身に付けてもらいます。言語を利用した治療では身につけにくく、就労訓練という実体験を通じて身に付けることができるこのプロセスは、自立するのに絶対に必要なプロセスで10ケ月かかります。また言語を苦手とする発達障害、知的障害の利用者にも適応も十分にあります。その後求職活動に入ります。そして、生活保護費以上の月給の仕事を見つけるのに、求職の多い横浜では2カ月間の期間が一般的です。合計12カ月ですが、わくわくワーク大石にも2年間以上通所する利用者がいます。問題と思います。しかしそう遠くない将来、12カ月以内の短期間で実行する専門施設が多数出現すると思います。そしてそれが一般的になると思います。そして、専門施設もプログラムを改善させ、受け入れる社会も変化すれば、私は6カ月でも十分に可能と思います。

日本は遅れていますが、世界の精神医療は脱入院、脱施設、在宅化の流れが決定的になっています。ブラック軍団の一員であるわくわくワーク大石も変容を遂げて、短期間で社会復帰させるポジティブフォースを持つホワイト軍団に変化し、国連に勧告されることなく将来も一般社会に受け入れてもらえるように努力したいと思います。

宇都宮病院の事件から精神医療は立ち直るのに40年間の歳月が必要でした。専門施設で同じことを繰り返さないためには、以下の4点につきると思います。

  1. 専門施設の正確な情報を流すこと
  2. 過去の精神病院の閉鎖的、長期入院が問題であったのと同様に、閉鎖的、長期間通所する専門施設は問題であることを認識すること
  3. 世界の流れは脱入院、脱施設、在宅化となっており、専門施設が増加することは将来の大きな問題となる可能性があることを認識すること
  4. 一般社会へ短期間で移行させる、ポジティブフォースを持つ専門施設を増やすこと

就労支援の選び方

依存症の専門施設には経営重視型・利益重視型・伝統型・就労重視型など複数のタイプが存在し、国連の勧告は「居場所型から通過型へ」という日本の福祉全体の変革を迫っています。

専門医からの5つのアドバイス

本当に入所が必要か考える、相談先は1か所だけにしない、平均在籍期間を聞く、退所基準を明確に確認する、就職後6カ月の定着率をデーターで見る、ステップ型利用は慎重に。制度は変わる途中ですが、就労支援を選ぶには「期間・実績・数字で判断する」ことです。

就労して社会復帰するには、就労支援事業所の存在が不可欠です。